すでに、BANZAIマガジンを購入された方は、ご存じでしょうが、今回の「俺のバルジ」特集に、ちはら会が投稿しています。せっかくなので、こちらのブログにも、掲載します。

 通称「エポック・バルジ」。
 限りなくベタなアイテムで恐縮だが、バルジ特集なら、この古典的名作を取り上げないわけにはいかない。発売以来、未だにプレイし続けられているゲームであり、個人としても、人生で最も多くプレイし、最も熱い対戦時間を過ごした作戦級アイテムである。

時代を超えて、再版され続ける名作
 初版は1981年で、エポックのワールド・ウォーゲーム・シリーズの初期作品である。短くも熱い隆盛期にあったシミュレーション・ブームに乗って、貴重なオリジナルの国産ウォーゲームとして、発売された。デザインは、鈴木銀一郎氏。ご逝去されて久しいが、「ヒゲの大佐」として黎明期のSLGシーンを支えた名デザイナーである。このバルジは、徹底したデヴェロップとプレイヤーを楽しませるサービス精神に満ちた傑作である。
 「バルジ大作戦」は、初版以来、CMJ本誌、別冊、JWCの新シリーズと、再版回数4回を誇るロング・セラーである。多数が発表されるも、短期間でプレイされなくなる作品群がほとんどの中、40年以上(!)に渡って購入とプレイができることが、その証左になろう。「日本SLG史上、最も愛されたバルジ」と、いってよい。

オーソドックスでシンプルなシステム
 ゲームシステムは、移動-戦闘-機械化移動-機械化戦闘のダブルインパルスである。機械化部隊の優秀性を表現した古典的なシステムであり、驚くほど、シンプルである。
 特に史実でも強力な装備を持ったSS装甲師団と装甲教導師団の破壊力は尋常ではなく、連合軍の歩兵部隊の2-3倍、機甲部隊の1.5-2倍の戦闘力を発揮する。が、実は、これら機械化部隊の最も強力な武器は、二次行動ができることである。
  「バルジ大作戦」は、制限された地形の中での機動のゲームである。このゲームでは、敵ZOCに進入するためには戦術移動が必要だが、わずかに6移動力しかない。道路上こそ、1移動力だが、全ての森林や丘陵は2移動力を消費し、さらに機械化部隊は深い森林には進入できない。そして、マップは当然、バルジの舞台-アルデンヌの大森林地帯であり、砂漠や東部戦線の平野を駆け抜けるような高速機動は困難である。
 これを補うのが、戦略移動である。自軍支配下の道路上のみで敵ZOCに進入できないという制限があるが、ドイツ軍の歩兵で9移動力、両軍の機械化部隊に至っては15移動力(!)と、2.5倍もの高速移動となる。しかも、機械化部隊はこれを各ターンに2回、実施できるわけである。
 ただし、自軍支配下のエリアを驀進できる連合軍に対し、ドイツ軍は敵へクスを占領しないと、戦略移動ができない。それを支えるのが、スコルツィーニのコマンド部隊である。

「エポック・バルジ」のらしさとは?
 このゲームのスコルツィーニのコマンド部隊は、極めて有用である。戦闘力さえ持たないが、アメリカ軍の軍服を身にまとい、敵後方に進入し、敵の占領地域(重要都市を除く)を戦略移動で駆け抜ける。コマンドが通過した道路へクスは、両軍が戦略移動が可能となる。ドイツ軍主力が戦線に穴を開け、そこから浸透するコマンドがルートの安全を確保し、次の移動フェイズまで確保できれば、主力による高速移動が実施できる。そして、敵の最も薄い部分を叩く!
  これを防ぐためには、連合軍はコマンドの通ったルートを踏み直し、コマンド部隊を狩るしかない。コマンドのいるへクスに進入すれば、1/2の確率でこれを看破し(露見判定)、排除できる。が、失敗すると、ドイツ軍に誤った情報を伝えられ、残りの移動力であらぬ方向へミスリードされる。drにもよるが、6個のコマンド部隊を全て狩るには、期待値で12回の掃討が必要である。必然的に連合軍も、2回の移動ができる機械化部隊を投入することになる。
 そう、本来は前線に投入すべき貴重な戦力を、コマンド狩りに投入せざるを得ず、ドイツ軍主力の突破を間接的に支援することになる。また、中央付近のウールセ川沿いの南北ルートに進出したコマンド掃討に失敗すると、南部から北部への増援が極めて困難になる。ここに、戦略移動したドイツ軍主力が到着したら・・・まさに連合軍の悪夢である。
  史実では、ここまでコマンド部隊は活躍しておらず、過剰演出ではないかという批判もある。が、捕虜になったコマンド部隊の兵士が、数千人規模で後方攪乱を行っているという偽情報を流したために、前線に向かうブラッドレーがMPに止められたり(!)、アイクの司令部に過剰なまでの警備体制が取られたりした。あるはずのない奇襲を受け、前線を蹂躙された連合軍の疑心悪鬼を、コマンドのルールで表したデザイナーの史観である。
 もう一つの味付けとして、ハイテ空挺部隊がある。第2ターンの増援として空挺降下を行い、成功すると敵の退路を塞ぎ、包囲による攻撃比率を上昇させる。以前、シェーネアイフェル高地に完璧に構築したスタック防御を、ハイテの降下成功により、一撃で突破された苦い経験がある。
 これは戦術的な使用方法だが、極めて戦略的な一手がある。戦線奥深くのジュディンヌ近郊への降下である。この部隊は間違いなく全滅するが、序盤の連合軍にとって是が非でも活用したい2個空挺師団の戦略移動を封じる(足止めできる)。これが決まると、連合軍の南部防衛、ひいては全戦線で重大な危機を迎える。
 ただし、どちらとも成功の確率は低い。想定したへクスに降下できる確率はわずかに1/6で、1/6では降下すらしない(中止)。残りの4/6は降下するものの最大で4へクスのスカッターがある。これが重要都市や深い森、マップ外ならば全滅し、浅い森や都市、町ならばステップロスをする。
 史実でも降下はしたものの、数が少なすぎ、かつ、目標地点を大きくそれ、効果を発揮し得なかった。決まると効果が高いが、当てに仕切れないハイテ。これがデザイナーの見立てである。
 ちなみに多くのバルジゲームでルール化されている橋の項目は一切、ない。これは、機械化部隊の深い森林への進入不可によって、シンプルかつ効率的に表現されている。橋の爆破や修理、奪取など、余分なルールを削ぎ落とした見事なデザインである。同様に、交通渋滞のルールもない。代わりに軍管区の制限が設定されており、必然的に第6SS装甲軍と第5装甲軍の連携が難しく、史実の再現がされている。ここにも十分に吟味した取捨選択が見て取れる。
  スコルツィーニのコマンド部隊、ハイテ空挺部隊、そして、不要と考えるルールの思い切った取捨選択が、「エポック・バルジ」のバルジらしさと言えよう。

シンプルとは、自由!-ベスト・セットアップから鹿内ギャンビットまで
 展開としては、ドイツ軍の強烈な初期攻勢と連合軍の豊富な増援による防御、そして空軍の飛来とともに勝敗を決める反撃と、おおよそ、史実通りの展開となる。ただし、これは連合軍が「正しい対応」ができた場合であり、その自由度から両軍の取り得る(取るべき)作戦は、極めて選択肢が多い。
 まず、1985年に発表された大平氏によるベストセットアップ案である。詳しくは、旧シミュレーター誌またはJWCに再掲された「バルジの神話」をご覧いただきたいが、地形を巧妙に利用した防御プランである。デザイン元のレックカンパニーで考案されたもので、「唯一、無二、最良のセットアップ」「完全な奇襲を受けたはずの連合軍の防御としてはちょっと強すぎる」とまで言っている。これは、軍管区の制限により、第6SS装甲軍が正面攻撃をせざるえをえず、唯一、突進ができる第5装甲軍は兵力不足から突破を維持できないことから、「ベスト」となった。言い換えれば、史実のバルジの再現であると言えよう。
 対して、2001年に発表された軍神鹿内氏による作戦研究-いわゆる鹿内ギャンビットは、これまでのプレイに大きな衝撃を与えた(JWC版を参照)。ベストセットアップという戦術レベルの視点ではなく、装甲部隊の集中運用という作戦・戦略レベルの観点を導入した、画期的な作戦案である。この要諦は、第6SS装甲軍と第5装甲軍の装甲師団の集中打撃とスコルツィーニのコマンド部隊を使った急速前進による主導権確保である。
2 鹿内ギャンビットの威力
 具体的には、ベストセットアップでは包囲して迂回すべきとされたサンビットを装甲師団で強襲し、これを早期に陥落させる。そこからスコルツィーニのコマンド部隊を先導に、一気に中央付近まで進出し、連合軍の南北の連絡を分断。いずれか兵力が偏った側に(あるいは双方に)バランス優位となる装甲兵力を集中投入し、戦線を崩壊させる。
 これに対する連合軍の作戦も、息をのむほどに洗練されたものだった。セットアップの第9機甲師団の一部と増援の第10機甲師団をまとめて、機動グループを作る。当初は、バストーニュの防衛に充てるが、空挺増援(と前線の残余部隊)が到着次第、ここから引き抜き、中央付近で機動予備とする。ドイツ軍が迂闊な前進を仕掛けたら(あるいは不用意に側面を晒したら)、その側背をつき、乱戦に持ち込み、大量増援の到着まで大突破を許さない。
 両軍による機械化兵力の集中と機動的な運用-そう、まさに戦理に適った新たな伝説の登場だった。
  正直、これをマスターした以降、数年間、無敗の状態が続いた。ドイツ軍はもちろん、連合軍でも、である。戦略的思考は、作戦的手段を凌駕する。鹿内氏が唱える「目的があってこその作戦」であった。
  それを打ち破ったのが、本邦で有数の練度を持つDas Reich氏(DR教官)である。

鹿内ギャンビットを越えて-北の防人作戦案
 彼のプレイスタイルは、その精度の高さにある。あきれるくらい隙がなく、某TVで有名になった「私、失敗しないので」を地で行く強さである。毎ターン、取り得るベストの選択肢を判断し、それを完璧と言ってよい戦術に落とし込む。「鹿内ギャンビットは無敵」と思っていたプレイが、戦術的・作戦的要素の積み重ねで打ち破られ、僅差であったが連敗を喫した。こちらの練度を上げるのはもちろんだが、同時に鹿内ギャンビットを越える作戦を徹底的に模索した。
 そこで生み出されたのが、「北の防人作戦」である。紙面の都合で、詳細は拙ブログ記事をご覧いただきたい。「鹿内ギャンビットを封じ込めろ!!新たな防衛作戦を開発中!~バルジ大作戦(CMJ)」
 ポイントは、以下の2点である。
①最も地形効果の高い位置を占める第2歩兵師団の2個連隊を、セットアップでサンビットに籠城させる。隣接する第99歩兵師団の1個連隊を第2歩兵師団との境界線に配置し、二次移動を止める。
②第9機甲師団と第4歩兵師団の各1個連隊をスパとヴェルヴィエに配置し、北部の予備とする。鹿内ギャンビットの機動予備グループとともに、前線の最も危険な部分に派遣する。
3 北の防人作戦
 この作戦では、北部戦線の兵力が薄くなっているため、第6SS 装甲軍は正面攻撃の誘惑に駆られることだろう(戦術的にはこれがベストであり、対戦したほぼ全員がこれを選択した)。実際、drによってはスタック防御ができないくらい消耗させられることもある。が、平均的なdrならば、増援と後方予備によって戦線を維持し、機甲部隊による機動防御と合わせて、イギリス軍の到着まで耐え忍べる確率が高い。また、強引に鹿内ギャンビットに持ち込もうとしても、その場合こそ、機動予備グループとともに、北部の予備を戦線の側面や中央部に派遣して、突破を防ぎやすくする。そう、敢えて前線を薄くして、敵を北方に誘導するとともに、増やした機動予備で防御の柔軟性を高める作戦である。
  結果的には、この作戦が極めて有効なことが、その後の対戦で実証できた。あのDas Reich氏を相手に3連勝し、4戦目で時間切れドロー、5戦目にして初の敗北となった。他の対戦では、無敗である。連合軍の勝率は、8割を大きく超えた。

Das Reich教官の回答-中央重強化作戦
 この展開に触発されて、ライバルのDas Reich氏も対鹿内ギャンビットの新たな手を考え出した。それが、「中央重強化作戦」である。こちらも詳細は、以下をご覧いただきたい。「知力を尽くした長考!納得のいくまで考え抜いた死闘は、9時間を越えるドローに!~バルジ大作戦(CMJ)」
 史実ではもっとも薄かった中央に、第106歩兵師団に加え、機甲騎兵と第28師団の2個連隊(境界線域)を投入する。これにより、装甲の早期中央突破は物理的に不可能になる。が、南部はフリーパスに近く、北と中央でも消耗戦略が可能なため、第3ターン以降に連合軍はかなり厳しくなるが、それを覚悟でスコルツィーニ部隊の封鎖と敵主力の大突破を防ぐ作戦である。
4 中央重防御作戦
 普通ならどこかにミスが出て、そこを突かれ、戦術的包囲でユニットが潰滅し、さらに薄くなったところを叩かれ、恐怖の奔流で呑み込まれる危険がある(実際、数戦はそれでドイツ軍が勝利できた)。が、それをギリギリで回避しながらスコルツィーニ部隊を封鎖して大突破はさせないという、人並み外れた戦術家らしいDR流の作戦である。しかもその中でチャンスがあれば果敢に反撃をかけるのが、Das Reich氏らしく、ある意味、意図的な乱戦を作り出す(!)という超強気の(高練度の)作戦案である。

そして、わが心のバルジ
 両方とも、数ユニットの機動が勝敗に直結するという、非常にタイトな作戦案である。一手一手を綿密かつ慎重に検討し、なかなかサドンデスにならない(ゲームが続く)ことから、最終的にはプレイが一例会では収まらなくなってしまったのは、笑い話である。
1 10時間を越える死闘
  人生でここまで入れ込んだゲームは、他にない。わが心のバルジ-バルジ大作戦こそ、ともに戦ってきた戦友たちとともに、代えがたい「俺のバルジ」である。

なお、最後に「北の防人作戦」以降にちはら会でプレイされたAARを掲載します。追い切れなかったので、ここまでですが、プレイしすぎです(笑い)。もはや、中毒レベル?!